お金のはなし

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アベノミクスは失敗に終わったのか?

少し前の話ですが、アベノミクスの理論を提唱し、内閣官房参与として経済政策を推進してきた人の発言がネットではかなり大きな話題になりました。(掲載されたのが日経新聞の電子版ということで、世間一般ではあまり取り上げられていないようですが。)

この記事の中の下記の一文が大きなインパクトになり、アベノミクスの司令塔が遂に白旗を揚げたと話題になりました。

「私がかつて『デフレは(通貨供給の少なさに起因する)マネタリーな現象だ』と主張していたのは事実で、学者として以前言っていたことと考えが変わったことは認めなければならない」 

 考えが変わったことの要因としてこのような米大学教授の論文を紹介されて、『目からウロコが落ちた』そうです。

金利がゼロに近くては量的緩和が効かなくなるし、マイナス金利を深堀すると金融機関のバランスシートを損ねる。

 そして、これからは財政の拡大を積極的に行い、買うものがなければ外国債を買って外為市場への介入も積極的に行うべきだと論じています。この記事は日経新聞の電子版で会員登録をしなければ一部しか読むことはできませんが、月に10本までは無料登録で読むことができるので、誰もが一度は目を通しておいた方がよい内容になっています。政権の、経済政策立案の中枢にいる人の考えがとてもよく分かります。

所感

この記事に添えられた浜田氏の写真は満面の笑みを浮かべています。まるで久しぶりに最愛の孫と再会したおじいちゃんのようです。ただ、記事の内容が内容なだけに、何とも言えない違和感があります

浜田氏の肩書きは内閣官房参与、つまり政府の一員としてアベノミクスを推進してきた責任者のひとりです。当然、結果に大きな責任を負っているはずですが、責任感と言うか、もっと言えば当事者意識が全く感じられません。私の印象では、まるで無責任な部外者が週刊誌で好き勝手な事を言っているようにしか思えません。

私は経済に関しては全くの素人です。でも、その素人からみても随分おかしな事を言っているようにしか思えません。
浜田氏は量的緩和金利がゼロ近辺のときには効かなくなることを知った、としていますが、十分な資金需要がないからゼロ金利を続けているのであって、そのような状況下でいくら量的緩和をしても、市中になかなか出回らない事くらいは素人の私でも分かります。

更に氏は、財政の拡大を提唱していますが、それは一時しのぎでしかなく、将来に負担を付け回すだけでデフレ脱却には無力であることは誰でも、ド素人の私でもわかります。そもそも、財政の拡大でデフレ脱却ができるのであれば、とっくの昔にデフレから脱却していたはずです。

買うものがないときには米国債の購入も選択肢の一つとしていますが、そんな安易に為替介入ができるのか?、できる訳がありません。特にアメリカがトランプ政権になれば、為替操作に関しては極めて厳しい態度を取るのは火を見るより明らかです。もちろん浜田氏もそんなことは百も承知です。そして、この記事ではこんな事を発言しています。

「ロシアとの外交では米国の嫌がりそうなことをしているのに、どうして円相場が5円も6円も円高に動いて為替介入ができないかということだ。財務省も米国の嫌がることができるような通貨外交をしてほしい」

浜田氏はロシアとの経済関係強化を総理に提言したそうです。ロシアとの経済協力(接近)をダシにして為替介入をやり易くすることを意図しているのでしょうか?。まさかこんな安直なことを考えているとは思えないので、その真意はよく分かりません。

最も危惧されること

一番気掛かりなのはこの発言です。

政府の負債である公債と中央銀行の負債である貨幣は国全体のバランスシートで考えれば民間部門の資産でもある。借金は返さずに将来世代に繰り延べることもできる。

日本国債のほとんどは国内買い入れで、日本の金融機関や生保等が購入しています。つまり、日本という国をひとつの家庭に見立てれば、息子が父親に借金をしているようなものなので特に問題はないという昔からの考え方に基づいているように見受けられます。更に、日本国(日本政府)は永遠に続くことを前提として永遠に借換を続ければ、実質的に返す必要がないことになります。

でも、財政(借金)の拡大を続けていけば、いつか必ず破綻します。それがいつか、また、どのくらいの借金が積み上がったら破綻するのかは誰にも分かりませんが、間違いなく、絶対に破綻します。財政の拡大を主張するのであれば、拡大をいつまで続け、そのときの借金はどのくらいであり、加えてその水準でも財政破綻はないと言える根拠を示すべきではないでしょうか?、できる訳ないと思いますが。でも、そうでなければ、余りにも無責任です。

この期に及んで財政の拡大を唱えるのであれば、「絶対に大丈夫。将来的にも十分な国債の買い手がいる。だから、国債の利率が跳ね上がって償還できなくなりデフォルトを起こす事は有り得ない」と言えるだけの根拠を示した上で実施していただきたい、そう願わずにはいられません。

アベノミクスは失敗なのか?

この日経新聞の記事をアベノミクスの失敗的な文脈で紹介されることもあるようですが、必ずしもそうだとは思えません。ご存知のようにアベノミクスは「3本の矢」から成ります。第1の矢がここまでで話した量的緩和を中心とした金融政策、第2の矢が財政政策、第3の矢が規制緩和等による成長戦略といわれるものです。このうち、第2の矢については今更、話す事は何もないので割愛します。

第1の矢にあたる量的緩和(及びマイナス金利)は確かに効果があります。但し条件があります。繰り返しになりますが、資金需要がなければいくら緩和してもマイナス金利にしても効果は限定的です。そのお金が株やタワーマンション投機、(人口が減り、空き家が社会問題になっているのに)アパート建設に向かうだけであれば、それはアベノミクスが意図するものとは異なるはずです。

つまり、何が言いたいのかといえば、金融緩和は健全な資金需要とセットでなければ意味がないということです。浜田氏は、当初は有効だったしていますが、それは単なる期待感から来る資産効果と円安効果です。資金需要を創造する原動力は言うまでもなく、「第3の矢」の中核となる規制緩和のはずでした。しかし予想通り、規制緩和については目立った成果は何もなく、期待だけで上がった株価は主な売買主体である外国人に売り込まれます。それでも何とか底割れを防ぐことができたのは、日銀や年金資金が乱暴な買い支えをしたからです。このことは株や為替をやっている人ならば誰でも知っていることです。

日本経済はどこへ行くのか?

このところ、日銀の黒田総裁に対する風当たりが強いようです。2%の物価上昇に自信を示していたのに目標には到底及ばない、遂にはマイナス金利を導入しても副作用ばかりで効果はさっぱり。マイナス金利を導入したときには円安誘導も同時に狙っていたようです(もちろんアメリカの手前、そんなことは口が裂けても言えませんが、、)。でも、このときは逆に円高方向に進んでしまいました。

これでは黒田総裁が批判されるのは止むを得ないことですが、私は黒田氏にはいささか同情的です。

黒田氏は、「金融政策でできる事には限界があり、その限界は既に超えている」と考えているはずです。おそらく、「後は政策で何とかしてくれ」というのが本音だと思います。でも、もちろん日銀総裁の立場で公に政府の政策に口を挟むことはできません。

医療、農業、子育て支援、その他の分野にも事業拡大の妨げとなる規制や新規参入を阻む障壁が、日本中に山のようにあります。それらの規制や障壁を取り払って、金融緩和でジャブジャブになったマネーが流れ込めは、2%のインフレ目標達成は十分に可能だと黒田氏は踏んでいたはずです。

でも、残念ながらそうはなりませんでした。アベノミクスの中核と位置づけられていた第3の矢は完全に頓挫しています。推進の原動力と期待されていたTPPも事実上消滅し、残ったのがカジノでは寂しい限りです。もちろんまだ望みはあります。ただ、安易な財政出動だけは絶対にやめて欲しい、そう願わずにはいられません。